なぜ、塗装職人は「腕一本で稼げる」と言われるのか?
「手に職をつけたい」「どうせなら、食いっぱぐれのない仕事がいい」
キャリアを考えるとき、誰もが一度はそう思うのではないでしょうか。数ある職業の中で、昔から塗装職人が「腕一本で稼げる」と言われ続けてきたのには、明確な理由があります。それは、この仕事が持つ、社会情勢や時代の変化に左右されにくい、非常に強固な「価値」に基づいているからです。
まず、大前提として、建物がある限り、塗装の仕事は決してなくなりません。
どんなに頑丈な建物でも、年月が経てば必ず劣化します。紫外線、雨、風、排気ガス…。365日、過酷な環境に晒され続ける建物を守っているのは、表面を覆う「塗膜」です。この塗膜もまた、年月と共に劣化していくため、およそ10年~15年に一度は「塗り替え」というメンテナンスが不可欠となります。これは、人間が定期的に健康診断を受け、必要であれば治療するのと同じです。つまり、塗装職人の仕事は、人々の大切な資産である「住まい」の健康を守る、社会にとって不可欠な役割を担っているのです。
加えて、この仕事は「AIやロボットには代替できない」という大きな強みを持っています。
一つとして同じ状態の現場はありません。その日の気温や湿度、壁の微細な凹凸や劣化の状態を、自らの五感で感じ取り、最適な塗料の調合や、刷毛・ローラーの動かし方を判断する。こうした複合的で繊細な作業は、マニュアル通りにしか動けない機械には決して真似ができません。
需要が安定しており、かつ機械に奪われることのない専門技術。だからこそ、一度身につけた塗装の「腕」は、景気の波や社会の変化に揺るがない、あなただけの「一生モノの資産」となるのです。
【年収モデル】未経験からベテランまで、給料が上がっていく仕組み
では、具体的に収入はどのように上がっていくのでしょうか。もちろん会社や地域によって差はありますが、ここでは一般的なモデルケースとして、成長の段階に応じた年収イメージをご紹介します。
STEP1:見習い期間(1~3年目 / 年収300~400万円台)
全くの未経験からスタートする最初のステージです。この期間の最大のミッションは、「稼ぐ」ことよりも「学ぶ」こと。先輩職人について現場に入り、道具の名前を覚え、掃除や材料の準備、塗らない部分を保護する「養生」といった基本作業を徹底的に叩き込みます。
この段階の給与は、いわば「未来への投資」です。専門学校のようにお金を払って学ぶのではなく、「給料をもらいながらプロの技術を学べる」という、非常に恵まれた期間と捉えることができます。仕事が終われば先輩が工具の手入れの仕方を教えてくれたり、時には食事に連れて行ってくれたり、技術だけでなく、職人としての心構えも学ぶ大切な時期です。
STEP2:中堅職人(3~10年目 / 年収400~600万円台)
一通りの基本作業をマスターし、特定の壁面や工程を一人で任されるようになる段階です。ここまでくると、仕事の面白さが格段に増してきます。自分の判断で作業を進め、美しい仕上がりを実現できた時の達成感は格別です。
このステージでは、単に作業ができるだけでなく、「効率」や「品質」が求められるようになります。より速く、より美しく仕上げる技術を磨くことで、会社の利益への貢献度も高まり、それが直接給与に反映されます。また、「一級塗装技能士」といった国家資格に挑戦し、取得すれば「資格手当」としてさらに収入を上乗せできるのもこの時期です。
STEP3:職長・リーダー(10年目~ / 年収600万円以上)
個人の技術者としてだけでなく、現場全体をまとめるリーダーとしての役割を担うステージです。自分一人で作業するのではなく、2〜3人のチームを率い、工程管理や安全管理、若手の指導まで行います。
お客様との直接のやり取りや、他の業者との調整など、求められるスキルは格段に増え、責任も重くなります。しかし、その分、会社からの信頼は厚く、報酬も大きく増加します。チーム一丸となって大きな現場をやり遂げた時の喜びは、一人で作業していた時とはまた違う、格別なものがあります。
収入アップを加速させる、最も重要な3つのポイント
年収モデルはあくまで一例です。中には、もっと早いスピードで収入を上げていく人もいます。そうした「稼げる職人」に共通しているのは、ただ真面目に作業をこなすだけでなく、常に「自分の価値を高める」という意識を持っていることです。
ポイント①:技術の探求心(より速く、より美しく)
「いつもの作業だから」と惰性でこなすのではなく、「もっと効率よく作業を進める方法はないか」「もっと美しい仕上がりにするには、どうすればいいか」と、常に探求心を持つことが重要です。例えば、新しい道具や塗料の情報を積極的に収集したり、先輩の卓越した技術を「盗もう」と観察したりする姿勢が、あなたを他の職人と一線を画す存在へと成長させます。
ポイント②:対応領域の拡大(塗装+αの知識)
塗装職人としての専門性を高めるのは当然ですが、その周辺領域にもアンテナを張ることで、あなたの価値はさらに高まります。例えば、塗装工事と密接に関連する「シーリング(コーキング)」の技術を学んだり、簡単な「防水」の知識を身につけたりすることで、一人で対応できる仕事の幅が大きく広がります。会社にとっては「この人に任せれば安心だ」という、替えの効かない貴重な人材になることができるのです。
ポイント③:資格取得という「客観的な証」
あなたの技術がどれだけ優れていても、それを口頭で証明するのは困難です。しかし、「一級塗装技能士」のような国家資格は、あなたの技術レベルを国が客観的に証明してくれる、いわば「公的な免許証」です。これは、給与の査定やキャリアアップの際に、非常に強力な武器となります。資格取得は、自分への投資であると同時に、会社やお客様からの信頼を得るための最も分かりやすい方法なのです。
その先のキャリア:「独立」という選択肢と、会社で道を極めるということ
職人として技術と経験を積んだ先には、どのような未来が待っているのでしょうか。大きく分けて、2つの道があります。
一つは、「独立」して自分の会社を立ち上げる道です。頑張れば頑張った分だけ収入になる青天井の魅力がある一方で、営業、経理、人材管理など、技術以外の全ての経営業務を一人で担うという厳しさもあります。まさに、ハイリスク・ハイリターンの選択肢と言えるでしょう。
もう一つは、会社に残り、その道を極めるという道です。現場のスペシャリストとして、誰にも真似できない技術を追求する「マイスター」のような存在になる。あるいは、現場の経験を活かして、後進の育成や会社の経営を支える「マネジメント」の道に進む。安定した環境の中で、より深く、広く、自分の専門性を高めていくことができます。
どちらの道が正しいというわけではありません。しかし、どちらの道を選ぶにせよ、絶対に不可欠なのが、若いうちに身につけた「盤石な基礎技術」と「仕事への誠実な姿勢」です。
私たちグラフトは、あなたが将来どんな道を選ぶとしても、その礎となる最も重要な土台を、どこよりも丁寧に、そして真剣に、あなたと一緒に築き上げていきたいと考えています。